脳梗塞は時間との闘いです。

脳梗塞コラム

第35回 脳梗塞の再発予防と発症後のくらし

[2012.03.12.]

脳梗塞は再発しやすい病気であり、発症後1年くらいは特に注意が必要といわれています。
また、脳梗塞の発症を機に、片麻痺や構音障害といった後遺症を負う人も少なくありません。脳梗塞の治療後、家庭に戻ったときに心がけたい再発予防のポイントと、日常生活の心構えについて、順天堂大学 医学部附属浦安病院・脳神経内科教授の卜部貴夫先生に伺いました。

退院時の生活指導をしっかり守ることが再発予防の第一歩!

脳梗塞を発症すると、治療を終え退院した後も、再発に対する不安を抱えて過ごす患者さんやご家族は少なくありません。
「脳梗塞は再発が多い病気ではありますけれども、退院時の生活指導を守り、血液をサラサラにする再発予防のお薬を欠かさず飲んでいただくことで、かなり予防することができます」と卜部先生は話します。

患者さんやご家族は、急性期治療の病院を退院するまでに、主治医の先生や看護師さん、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリスタッフといろいろな会話をかわし、服薬、日常生活、リハビリなどについて指導を受けているはずです。それらの内容はメモをとるなどして家庭に持ち帰り、しっかり守って生活することがまずは基本と考えましょう。
「生活習慣病を抱えている方や、その心配がある方は、食事に気を配り、可能な範囲で運動をして、改善させることが大切です」と卜部先生はアドバイスしています。

高血圧糖尿病脂質異常症は、脳梗塞の再発の3大リスクとなりますから、食生活には十分な配慮が必要です。血圧が高めの人は減塩に努めましょう。糖尿病やその予備軍の方は、食事指導に従ってカロリーコントロールします。脂質異常症予防には、悪玉コレステロールや中性脂肪を増やさないように、動物性脂肪や甘いものを減らし、青魚や野菜を中心にした食事を心がけるようにします。
「脂肪の摂り過ぎはもちろん気をつけなければなりませんが、意外な盲点となっているのが炭水化物です。ご飯やパン、麺類などの炭水化物の過剰摂取は、血糖値の急上昇を招きやすいと考えられます。ですから、炭水化物は控えめにして、朝食にご飯、昼食にパンを食べたら、できれば夜は主食抜きで、おかずを中心に食べるのが理想的です」

運動面では、後遺症の状態にもよりますが、できる範囲で定期的に運動をすることが大切です。
「歩行できる方は、1日40分以上、毎日続けてしっかり歩くことが重要です。歩くことは運動機能だけでなく、心肺機能や血液循環など全身の機能を高め、摂取カロリーを消費する上でも非常に効果的です。一方、麻痺があって移動しにくい方や、車いすを使用している方は、ちょっと立ち上がって物を取るなど、けがをしない範囲でなるべく体を動かすように努めてください。糖尿病や糖尿病予備軍の方は、食後あまり時間をおかずに体を動かすと、カロリーを効率よく消費させることができます」

脳梗塞後、うつ状態になる人が3〜6割。精神面での落ち込みに注意!

退院後、「後遺症により体が思うように動かない」「以前のような立ち振る舞いができない」といったいらだちや先行きへの不安から、気分が落ち込みがちになります。なかには、抑うつ状態が長期に及ぶ患者さんも少なくないため、家族など周囲の人々は患者さんのメンタル面にも注意をはらう必要がある、と卜部先生は指摘します。
「入院中は、医師や看護師、リハビリスタッフなどのサポート体制があるため、患者さんも前向きに治療に取り組むのですが、家庭に戻ると、意欲がなくなり、精神面でグッと落ち込んでしまうケースが少なくありません。脳梗塞を含めた脳卒中後のうつは、30%とも60%ともいわれています」

患者さんがふさぎこんで、喋らなくなったり、食欲が落ちてきたり、意欲がなくなったりすることから、ご家族が異変に気づくことが多いそうです。
「患者さんの元気がない状態が続いているときは、うつ病の可能性があるので、早めに主治医やかかりつけ医に相談しましょう。症状が重い場合は、抗うつ薬等で治療をします。状態によっては、精神科を紹介してもらい受診するケースもあります。軽度の抑うつ状態であれば、通所リハビリなどに通って人と接する機会を増やしてあげることで、改善に向かうこともあります。内にこもらないような環境にすることが大切です」

構音障害などで周囲の人とのコミュニケーションがとりにくくなったり、今まで苦もなくできていたことや体を動かすことが難しくなると、患者さんは自分だけが不幸であるように感じ、孤立感を増して、投げやりな気持ちになることもあるようです。
「後遺症などから孤立感を抱え、抑うつ状態にある患者さんは、通所リハビリテーションなどの施設で同じような状態の方がリハビリを頑張っている姿に接したり、同じ病気を体験した人と接すると、辛いのは自分だけではないことがわかり、皆と一緒にがんばってみよう、と気分が上向きになることもあります」と卜部先生は言います。

ご家族は手や口を出しすぎず、患者さんの気持ちに寄り沿って

脳梗塞を発症して病院に運ばれ急性期治療を受けて、気がついたら早期リハビリが開始される。少し状態が安定し、急性期病院を退院する場合も、自宅には戻れずリハビリ病院へ移る人もいらっしゃいます。怒濤のように進む状況の変化を把握するだけでも精一杯なのに、後遺症で手足を思うように動かせない、うまく喋れない、というようなときには、「なぜ、自分だけがこんな目に遭うのだろう。元の生活には戻れないのか」と理不尽な思いにとらわれても不思議ではありません。発症から1カ月ほどの間、患者さんは、急展開の変化に身を置かなければならないのです。

そんなとき、暮らしを共にするご家族のサポートは、患者さんにとって大きな支えとなります。一方、ご家族の対応次第では、患者さんをいらだたせたり、リハビリの意欲を失わせてしまったりすることもないとはいえません。
「ご家族は、患者さんの不安やいらだちといった気持ちを十分に理解してあげることが大切ですね。身体の機能が回復していないのに、発症前の状態と比べて『こんなこともできないの?』とご家族が口やかましく言うのは、患者さんを傷つけ、反発を招くのでよくありません」

逆に、患者さんの先回りをして、手を貸しすぎるのも逆効果といいます。家族の愛情が患者さんのためにならないこともあるのです。退院後も、初めの数か月間のリハビリでかなりの機能が回復する可能性がありますから、家庭でも患者さんができることは、時間がかかっても自分でしてもらうようにします。家庭生活すべてがリハビリの場であると考え、あまりに世話を焼きすぎないようにしましょう。
「歯磨きや着替え、食事などの身のまわりの動作を、可能な範囲でしてもらうようにします。動作が遅くてもそれが当たり前と家族は受け止めてください。ただし、転倒などの危険には注意が必要です。焦らずにゆっくりと、患者さん自らが進んで日常生活を送れるように見守ってあげることが大切です」

患者さんにとってもご家族にとっても、「発症前の身体の状態に戻れるのか」ということは、重大な関心事です。

これについて卜部先生は、障害されている脳の場所やその範囲によって後遺症の種類や程度は異なり、リハビリでかなり改善されることもある一方で、元に戻ることがなかなか難しいケースもあるといいます。
「ただし、元通りにならないからとリハビリを止めてしまうと、現状から一歩も進みません。リハビリを毎日確実に続けていけば、違和感なく生活できる状態に戻る可能性があるのです。医療保険が適用となる回復期のリハビリは上限が定められていますが、それ以降も、リハビリを継続することで少しずつ暮らしやすくなっていきます。ご家族も患者さんも現在の状態を認識し、少しずつ受け入れながら、希望をもって進んでほしいと思います」

介護保険を利用して、日常生活の危険と介護の負担を減らそう

患者さんに危険が及ばないように、家庭内を暮らしやすい環境に整えることも大切です。
「麻痺などの運動機能障害がある方は、ふとんよりもベッドのほうが起き上がりや立ち居がラクになりますね。また、段差につまずいて転びやすくなったり、トイレが使いにくくなったりするので、段差をなくす、手すりをつけるなどの住宅改修をして、家のなかの危険な箇所は改善していきましょう」と卜部先生は提案します。

介護保険(*)を利用している場合、同一住宅を20万円まで1割負担で住宅改修することができます。階段やトイレに手すりをつけたり、段差を解消したり、扉を引き戸やアコーディオンドアに取り替えるなど、住宅の不都合な部分を改修するようにします。住宅改修をする場合、事前に申請が必要ですので、ケアマネジャーに相談してください。患者さんが家庭に戻ってきてからでは、大がかりな住宅改修などはしにくくなりますから、できれば退院前、または回復期病院に転院している時期に相談しておき、療養環境を整えておくのが理想的です。

また、患者さんの歩行を助ける補助具や車いす、ボタン操作で背もたれを起こせる電動ベッドなど、レンタルできる福祉用具もあります。ただし、介護認定の程度によってレンタルできる用具は異なります。ポータブルトイレや入浴用のサポート用品などは人が使ったものに抵抗がある人もおり、そのような場合は、レンタルではなく費用の1割負担で購入することができます。地域の包括支援センターやケアマネジャーに相談してみましょう。

退院後、病院、ドクターの上手なかかり方は

脳梗塞の急性期治療は、救急センターや脳卒中センターなどのある地域の基幹病院や専門病院、大学病院等で行われることが多いのですが、退院後はフォローアップをどこで受けるか、病院の立地条件や病院の方針、患者さんの症状等によって変わってきます。

「専門病院と地元のかかりつけ医、患者さんという三角形で考えてみましょう。理想としては、専門病院がその患者さんの入院中の診療情報をすべてかかりつけ医に提供し、日常的な診療、たとえば、普段の投薬や風邪をひいたとき、血圧の管理などは、かかりつけの先生にお願いし、専門病院では、半年から1年に1回程度、定期的に脳梗塞に関わるMRIやMRA、CT、頸動脈エコーなどの検査をしてチェックする。また、何か異常があったときには診療する、というやり方がよいと思います」と卜部先生は提案します。

「脳梗塞を経験した患者さんの多くは、再発予防のお薬として血液をサラサラにする抗血小板薬(アスピリンなど)か抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用します。また、高血圧や糖尿病などほかにも病気がある方は、降圧剤や糖尿病治療薬なども処方されます。これらのお薬は自己判断でやめたりせずに、きちんと飲み続けることが重要です」

なお、ワルファリンは、血液検査をしながら量を調節する必要があるので、フォローアップをどうするかは、主治医と相談してみましょう。
「わからない点や質問があるときは、遠慮せずに医師に聞いてください。病院にかかるほどではないけれども、何か変化があったときには、メモをしておいて、次回の診療時に伝えるとよいでしょう」

再発の兆候を見逃さず、異常があったら急性期病院へ!

「最後に付け加えると、脳梗塞の症状をもう1度確認しておき、再発を見逃さないことが大切です」と卜部先生は強調します。

1回脳梗塞を起こされている方は、どういう症状が起こったら脳梗塞か、経験から理解していますが、以前と違う場所の血管が詰まると、異なる症状が現れることがあります。たとえば、1回目は片側の手足がしびれたり、麻痺になったりした方が、2回目は視野が半分欠けたり、ろれつが回らなくなるなどです。何らかの異変が起こったときは、すぐに救急車で前回治療した急性期病院に運んでもらいましょう。

脳梗塞の症状には、次のようなものがあります。


日常生活に注意して、きちんと服薬しながら、できる範囲でリハビリを続けること。そして、万一再発の兆候が現れたら、即救急車を手配すること。それが、脳梗塞という病気とつきあっていく王道なのです。

取材協力/順天堂大学医学部附属浦安病院 脳神経内科教授・卜部 貴夫先生


(*)介護保険:40歳以上の人は介護保険に加入していますが、原則として介護保険のサービスを利用できるのは、65歳からです。ただし、40〜64歳の人でも、国が定める特定疾病にかかっている場合は、介護保険のサービスが利用できます。脳梗塞を含む脳血管疾患の患者さんは、65歳未満でも介護保険のサービスを利用することは可能です。

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