脳梗塞は時間との闘いです。

脳梗塞コラム

第34回 チームで脳梗塞治療〜急性期・回復期・維持期を支え、病院から社会へ

[2012.02.08.]

熊本県で地域の救急医療を担っている済生会熊本病院には脳卒中センターがあり、24時間365日受け入れ体制で脳卒中の治療にあたっています。ここでは、脳卒中専門医(神経内科・脳神経外科)、看護師、リハビリスタッフなどがチームを組んで、患者さんの命を救い、合併症が起こらないよう管理し、後遺症を軽減するよう早期リハビリに取り組んでいます。

済生会熊本病院、神経内科・リハビリテーション部部長の米原敏郎先生と、脳卒中リハビリテーション看護認定看護師として、脳卒中センターや救命救急センターで活躍されている荒木裕子さんに、チーム医療の実践とその成果を伺いました。

チーム医療で早期リハを実現。早期離床で廃用症候群を予防

脳梗塞の急性期治療というと、以前はとにかく命を救うことが重視され、その後の生活を考えて行うリハビリはどちらかというと二の次になっているところがありました。

「現在は、生命の危険がない限り、できるだけ早期にリハビリを始め、早期離床を促すことが、脳梗塞の患者さんの機能回復を早める鍵となることが知られています。薬物療法や手術だけが治療なのではなく、リハビリも含めた総合的なアプローチこそが、患者さんをよりよい状態に導くのではないか、と私たちは考えています」と、米原先生は急性期のリハビリの重要性を指摘します。

現在、済生会熊本病院では、入院直後から、主治医、看護師、リハビリスタッフがチームを組んで、患者さんの治療にあたっています。急性期のリハビリでは、早期離床廃用症候群(*1)の予防が重要なポイントになる、と米原先生は言います。

「長期間、ベッドに寝たままでいると、筋力が落ち、関節が固まって体が動かなくなるだけではなく、呼吸機能や消化機能、知的能力などにまで影響が及びます。それは心身全体の機能が低下する“廃用症候群”の危険性が増すことでもあるのです。脳梗塞の症状は、意識障害や手足の麻痺、飲み込みの障害、失語症などさまざまありますが、脳のどこが梗塞になったかによって異なります。したがって、リハビリは一人ひとりの患者さんの病状に合わせて組まれます。通常は入院の翌日から理学療法士を中心としたスタッフが、ベッドサイドで早期のリハビリ(以後:早期リハ)を始めます」(米原先生)

体を動かしてもいい人はベッドの上で体を起こし、起こすのが危険な場合には、関節可動域の拡大(手足の曲げ伸ばし)を行います。かなり早いうちから、起き上がる、座るといったトレーニングを始めて廃用症候群の予防に努め、そこから食事をする、立つ、歩くといった日常生活動作の訓練を進めて、早期離床につなげます。

「早期リハ、早期離床は、“廃用症候群”を防ぎつつ、次の回復期のリハビリ(以後:回復期リハ)にスムーズに移行するための大切なプロセスなのです」(米原先生)

チーム医療で、合併症を早期に発見、対処してトラブル回避

同病院では、脳梗塞の専門医(主治医)、看護師、リハビリスタッフといった脳梗塞専門のチームだけが患者さんを診ているのではありません。このチームとは別に、「栄養サポート」「褥瘡(床ずれ)」「感染」「呼吸器」「糖尿病」「がん」など、それぞれの領域で専門的なスタッフで編成された小チームが、定期的に病棟を巡回し、患者さんの異常をすぐさま発見し、早期に対処しています。

「たとえば、栄養サポートチームは、医師、栄養士、摂食・嚥下(飲み込み)の認定看護師、臨床検査技師が連携し、飲み込みに不安がある人や栄養障害の人を見つけて、検査のオーダーをしたり、治療のアドバイスをしたり、心身の状態を良好に保てるようにサポートしています。また、高齢者や栄養状態が悪い患者さんは、同じ姿勢でベッドに寝ているだけで、圧迫と栄養不足によって皮膚が壊死する褥瘡(床ずれ)を起こしやすいのですが、そちらに関しては、褥瘡チームが巡回して患者さんの皮膚の状態をチェックするようになってから、予防や早めの処置ができるようになりました」(米原先生)

チーム医療への歩み、チーム医療の成果

済生会熊本病院は、全国でも「脳卒中センター」の開設が早く、チーム医療も先進的に行われていますが、今のような体制を整えるまでには、多くの取り組みとスタッフの努力がありました。17年前の1995年、米原先生は、もう一人の神経内科の医師と赴任しましたが、それまでは、脳神経外科の医師5名がすべての脳疾患を担当していました。

当時は、米原先生ともう一人の神経内科医は救急外来や検査、急性期の治療に日々追われ、脳神経外科の医師たちも手術などで手一杯の状況でした。そのため、脳卒中センターに入院している患者さん一人ひとりにきめ細かい目配りをすることができず、昼間の病棟は医師不在になりがちでした。

「当時はまだ、脳梗塞の発症後は体を動かしてはいけないという古い考え方が残っており、リハビリスタッフもいなかったため、現在のような早期離床を促す環境ではありませんでした。褥瘡などの合併症を起こしやすい状況だったのです」(米原先生)

このような負のスパイラルを改善するため、米原先生は、クリニカルパス(診療スケジュール表)の先駆けのような“安静度拡大マニュアル”を作成しました。

入院中のそれぞれの患者さんの状態に合わせて、どのようなスケジュールで日常生活動作の範囲を拡げていくかの計画として、“安静度拡大マニュアル”を医師が立て、看護師に指示することにしたのです。看護師は、その計画表に沿って離床に向けてのサポートをしていきます。それぞれの医療スタッフが、専門性を発揮しながら他の医療職と連携して患者さんによりよい医療を提供する。このようにして、済生会熊本病院はチーム医療への第一歩を踏み出しました。

さらにその2年後、理学療法士が採用され、麻痺のある患者さんのリハビリをしながら、離床の際の注意点やリハビリの方法などを看護師にもアドバイスしていきました。看護師もリハビリのスキルが学べるようになったのです。さらに、作業療法士、言語聴覚士などが加わり、チームの連携も充実してきました。
「脳梗塞の急性期に、医師や看護師だけでなく多職種の人が関わり、お互いに切磋琢磨しながらよりよい方向をめざしているうちに、だんだんチーム医療というかたちが整ってきたといえるでしょう」(米原先生)

チーム医療の充実とともに、脳梗塞の後遺症が軽減していきました。同時に肺炎や褥瘡、感染症などの合併症も減少しています。そのため、患者さんの在院日数は10年前に比べ、約1週間短縮し現在は平均13日となり、死亡率においては2000年の7.7%から2010年には3.3%へと半減しています。

一般的に、急性期病院で治療した後は、自宅に戻るか、回復期リハビリテーション病院等に転院します。重症患者さんが運ばれてくることが多い済生会熊本病院では、そのまま自宅に戻れる方は約3割で、7割の方が回復期リハビリテーション病院に転院するそうです。

回復期リハビリテーション病院では、家庭復帰、社会復帰をめざして、身の回りの動作訓練、たとえば歩行訓練や麻痺した手足を使う訓練、麻痺のない側の能力を生かす訓練など「回復期のリハビリ」を行い、回復した機能を維持する「維持期のリハビリ」へつなげます。

脳卒中リハビリテーション看護認定看護師がチーム医療の要

脳梗塞急性期のチーム医療を支える上で重要な役割を担っているのが、脳卒中全般の専門的な知識と技能をもち、指導的な立場にある脳卒中リハビリテーション看護認定看護師(*2です。

昨年、初代の脳卒中リハビリテーション看護認定看護師が全国で164名(熊本県では6名)誕生しました。そのうちの一人が、済生会熊本病院の脳卒中センターに勤務する荒木裕子さんです。荒木さんは米原先生とともに、長く脳梗塞急性期のチーム医療にあたってきました。

荒木さんは、脳卒中リハビリテーション看護認定看護師の資格を取得したきっかけを次のように話します。
「急性期病院では、おもに脳梗塞発症後1〜2週間までの方の看護を担当します。短期間の入院で元気にご自宅に帰れる方もいらっしゃる一方で、回復期リハビリ病院などに転院される方も少なくなく、転院後の患者さんの病状はどう経過していくのだろう? と常々気になっていました。そこで、ほかの看護師と一緒に回復期リハビリ病院にお邪魔して、そっと患者さんの様子を拝見したこともあります。心配していた方がお元気に過ごされていたのを見て、自分たちの看護が次につながっていたのだと、うれしく思いました。10年間、脳卒中急性期の患者さんの看護で学んできたことに加えて、急性期に続く回復期、維持期までのリハビリ全般について勉強し、今後の看護に生かしたいと考えたのです」(荒木さん)

脳卒中リハビリテーション看護認定に向けた教育過程には、回復期リハビリ病院で2週間の実習があるそうですが、荒木さんは、患者さんやその家族への生活支援を実際に触れることで、看護の視野が拡がったといいます。
「回復期リハビリ病院では、それぞれの患者さんのゴールを設定し、さまざまな職種のリハビリスタッフが、リハビリを行います。患者さんが退院されるときには、医師や看護師が十分な時間をかけて、患者さんとご家族にカンファレンスを行っています。急性期の看護は、常にスピードある対応が要求されて、患者さんを送り出すだけで精一杯だったところもありますが、回復期病院での体験によって、急性期の現場にいながら、患者さんのその後まで視野に入れた提案ができるようになりました」(荒木さん)

脳卒中リハビリテーション看護認定看護師には、患者さんと家族、スタッフ間の調整や、スタッフ教育、患者さんの転院先への情報提供など、より高度なプロデュース能力、コミュニケーション能力、指導力が求められています。

たとえば、自宅に戻ることを望む患者さんに対して、ご家族は、階段の上り下りが心配だからと転院を希望しているなど、患者さんとご家族の希望が異なることがあります。
「患者さんとご家族の希望を汲み取りながら、医師も交えたリハビリカンファレンスでその患者さんにとっての急性期治療のゴールを確認します。さらに、元の暮らしに戻っていく一人の生活者としての目標も見据えながら、チームで解決策を練り、患者さんを支援していくことが大切だと思います」(荒木さん)

脳卒中リハビリテーション看護認定看護師としての荒木さんの的確な視点を、周囲のスタッフにも拡げていくことで、急性期治療の質がより高まると米原先生は考えます。急性期リハは、どうしても廃用症候群の予防に重点が置かれますが、回復期リハは、個々の患者さんがそれぞれの生活に戻っていくための支援になります。回復期につなげるためには急性期は何をすればよいか考えて提案してくれる荒木さんの存在は、チーム医療の要といえます。

荒木さんは現在、脳卒中センターから救命救急センターに移り、さらなる期待を担って活躍中です。救命救急センターには、脳梗塞をはじめとして最初の対応が重要な患者さんがいます。将来的には、救命救急外来に運ばれてきた患者さんの様子を的確に判断して、治療につなげるような活躍が期待されています。脳梗塞治療は時間との勝負です。ますます荒木さんのような専門看護師の存在意義は高まることでしょう。

看護師は、患者さんと医師・医療スタッフとの橋渡し役

脳梗塞で突然倒れて、話せない、歩けない、という現実を突きつけられた患者さんとご家族のショックと不安は計り知れません。そんな患者さんとご家族に向けて、荒木さんは力強いエールを贈ってくれました。
「脳梗塞など突然の病気では発症直後、患者さんやご家族は強い不安を抱えています。それでも、先生には言いにくい、と遠慮される方もいらっしゃいますから、そんな不安や思いを先生に橋渡しする、というのも看護師の役目。患者さんたちの本当の思いを引き出し、治療・リハビリにつなげていくのも看護師の仕事です。患者さんやご家族も、困ったことがあったら看護師に相談してほしいですね。患者さんの不安や希望に対して、医師や看護師、リハビリスタッフなど、みんなで知恵を出し合って、解決への道筋を探すことができます。また、急性期病院では、思ったような回復がみられなくても、回復期のリハビリを続けるうちに、だんだん改善することがありますから、焦らず、あきらめず、目標に向けて一歩一歩リハビリを進めていっていただきたいと思います」(荒木さん)

取材協力/社会福祉法人

恩賜
財団

済生会熊本病院

脳卒中センター神経内科・リハビリテーション部部長 米原敏郎先生
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 荒木裕子さん

(*1)廃用症候群:絶対安静などの状態が続くと、筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、起立性低血圧などが生じる。2週間の安静で筋力の2割が低下するともいわれ、そのまま寝たきりになることもある。ただし、予防は可能で、そのためには発病初期からリハビリを計画し、早期離床を目指すことが大切である。

(*2)脳卒中リハビリテーション看護認定看護師:まず認定看護師とは、日本看護協会が認定している専門資格で、「ある特定の看護分野において熟練した看護技術及び知識を用いて、水準の高い看護実践のできる者」と定義され、看護の現場で「実践」「指導」「相談」の3つの役割を担っている。認定看護師の資格取得には、5年以上の実務経験を有することが条件で、その条件をクリアした者が、6カ月間の研修を経て、認定審査に合格しなければならない。認定看護師には、「がん化学療法看護」「摂食・嚥下障害看護」「感染管理」などさまざまな分野があり、2010年から新たに加わったのが「脳卒中リハビリテーション看護」で、18分野になった。
脳卒中の罹患者数は、今後も増えると予測されている。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師には、異常の早期発見や合併症予防のための早期離床、セルフケアの促進、他職種との調整なども求められている。

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