脳梗塞は時間との闘いです。

脳梗塞コラム

第19回 アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞などの
      再発予防に欠かせない抗血小板療法のABC

[2010.01.18.]

抗血小板薬で動脈硬化性の血栓を防ぐ

脳梗塞の再発を予防するための薬物療法(抗血栓療法)には、抗凝固療法と抗血小板療法の2つがあります。第18回コラムで紹介した抗凝固療法は、心臓にできた血栓が原因となる心原性脳塞栓症の再発を予防するために、ワルファリンという内服薬を服用する方法です。一方、抗血小板療法とは、抗血小板薬を服用して血小板の働きを抑える方法です。これは、アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞の再発予防に推奨されています。

今回は、抗血小板療法の再発予防について脳梗塞の薬物療法に詳しい慶應義塾大学医学部神経内科の伊藤義彰先生にお話をお聞きしました。

抗血小板薬が、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞の再発を防ぐのはなぜか、そのメカニズムを伊藤先生は次のように説明します。

「アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞は、動脈硬化がベースとなって起こります。動脈の内側に脂肪が付着してプラークと呼ばれる動脈硬化の病巣が形成されると、内壁が血管の中に向かってふくらむため血管内径が狭くなり、血流が悪くなっていきます。プラークの部分が破綻すると、表面に血小板という血を固める成分が集まってきて血栓を形成します。この血小板血栓が血管を閉塞して脳梗塞を起こすのです。動脈にできる血栓は、心臓にできる血栓と組成が違い、血小板が主体なので、血小板の働きを阻害する抗血小板薬が再発予防に用いられるわけです」(伊藤先生・以下同)

抗血小板薬はアスピリンをはじめ4種類。それぞれに特徴がある

「抗血小板薬のなかで、もっとも歴史が古く、安価なアスピリンはスタンダードな抗血小板薬として、世界中で広く使われています。その後、チクロピジン、シロスタゾールという薬が登場し、最近、そこにクロピドグレルという薬が加わりました。薬の種類によって作用のメカニズムは異なりますが、血小板がお互いにくっつくのを抑える作用、あるいは、プラークの部分に血小板が粘着・凝集するのを阻害する作用などによって、血小板血栓を予防します」

では、抗血小板薬による脳梗塞の再発予防効果はどの程度なのでしょうか。

「アスピリンは、アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞を含めて再発を32%抑えるということが明らかになっています。また、シロスタゾールは、プラセボ(擬似薬)と比較すると、アテローム血栓性脳梗塞を40%、ラクナ梗塞を43%抑制すると報告されています」
おおむね3〜4割は再発を防げるというわけです。

それぞれの抗血小板薬の予防効果は?

最新の『脳卒中治療ガイドライン2009』では、2004年版からの変更点として抗血小板薬の推奨グレードの一部に修正がありました。これは、これまでに国内外で行われた比較試験やエビデンス(科学的根拠)の高いデータを総合的に評価した結果です。

「全般的な脳梗塞の再発予防効果の点から、アスピリンとクロピドグレルがグレードA、シロスタゾールとチクロピジンがグレードBになっています」

アスピリンとその他の薬剤の比較では――
アスピリンとクロピドグレルの比較試験の結果、欧州のガイドラインではクロピドグレルを推奨していますが、実際に有意差があるかどうかは未知数です。糖尿病や脂質異常症の患者さんでは、クロピドグレルの有意差が大きいとされています。
中国で行われたアスピリンとシロスタゾールの比較試験では、効果はほぼ同等で、シロスタゾールは、抗血小板薬の副作用である出血が少なかったと報告されています。シロスタゾールは、ラクナ梗塞、アテローム血栓症ともに効果があり、糖尿病や高血圧の患者さんで有効性が高く、脳出血の副作用が少ないとされました。
日本では今年中に、アスピリンとシロスタゾールの比較試験の結果が出る予定です。

アスピリン以外の薬剤間の比較では――
「同じタイプの薬剤であるチクロピジンと後発のクロピドグレルについては、日本での比較試験の結果、脳梗塞の予防効果は同等でしたが、クロピドグレルに比べチクロピジンのほうが副作用は2、3倍ほど大きいと報告されています」

「それぞれのお薬にそれぞれ特徴があるので、再発予防効果だけでなく、副作用やそのほかの注意点も加味して、患者さんの病状や既往症などに合わせて選択するのが賢明です。今までに同じ抗血小板薬を数年間にわたって飲み続けている場合は、副作用の出現率は低いのですが、種類の違うお薬に替えた場合は、未知の副作用が出る心配もありますから、慎重な配慮が求められます」と伊藤先生は解説しています。

服用中は、こんなことに気をつけて!

抗血小板薬の選択や変更は、主治医の判断に委ねられていますが、患者さんもそれぞれの薬の特徴や服用上の注意点を知っておくとよいでしょう。伊藤先生に、気をつけるべきポイントを教えていただきました。

1.出血に注意!
「抗血小板薬で血液をサラサラにすると、血が止まりにくくなります。以前に胃潰瘍や脳出血を起こされた方、血圧のコントロールが十分でない方はとくに注意が必要です。まず、胃潰瘍の治療や血圧コントロールが先決です。胃潰瘍が改善した、血圧のコントロールが十分にできたと判断できたら、薬によっては服用を開始することもあります」

伊藤先生が指摘するように、抗血小板薬を飲む場合、もっとも気をつけなければならないのが出血です。脳の細い血管が詰まるラクナ梗塞は血圧との関連が深く、脳出血のリスクが増さないように血圧コントロールを十分に行うことが大切です。

「けがや骨折の場合も出血するおそれがありますから、転倒には十分気をつけてください。脳梗塞の後遺症でからだの自由がきかなくなっているときにはとくに注意が必要です」

2.アスピリンには適量がある。多すぎても効かない
「アスピリンでは、服用量も重要です。抗血小板薬として用いる場合、1日75〜150mgの低用量(少量)のアスピリンに効果があることが知られています。アスピリンの量を増やすと、プラスの働きをするプロスタサイクリンという物質の産生まで抑制してしまい、脳梗塞の再発予防効果が得られなくなってしまうのです。これをアスピリンジレンマと呼んでいます」

また、「アスピリン抵抗性(アスピリン不応症)」といって、おもに遺伝的な理由からアスピリンが効かない方がいます。アスピリンを飲んでいたのに脳梗塞が再発したという場合は、不応症の可能性が考えられますので、ほかの血小板薬への変更が考慮されます。

3.それぞれの薬剤の副作用に注意!
アスピリンでは、胃潰瘍、悪心、嘔吐などの消化器症状、クロピドグレルでは発疹、下痢症状などの副作用がみられます。
「アスピリンをはじめ、抗血小板薬を飲み始めるときには、過去に胃潰瘍の病歴がない人でも、胃の不調や悪心、嘔吐などの消化器症状が現れることがしばしばあります。そのため、多くの臨床の現場では、胃薬をあらかじめ処方して副作用を予防しています」

シロスタゾールでは、脳血管の拡張に伴いズキンズキンと脈を打つ拍動性の頭痛や、動悸・頻脈などの副作用がみられます。
「予防策として、服用を開始するときに、慣らし運転のような形で1日量の半量から始めて、徐々に量を増やしていくと、頭痛が起こりにくくなります。ご高齢の方では、半量でも十分な効果が見込めますから、そのままの量を続けることもあります」

チクロピジンは、肝障害などが起こる心配がクロピドグレルと比べて高いので、今まで服用していた方も血液検査などで肝機能のチェックをしていくことが大切です。

「どの薬の場合でも、飲み始めは副作用が出やすい時期です。服用中に何らかの異変を感じたら、遠慮せずに主治医に伝えましょう」

4.服用中の検査は? いつまで飲み続ける?
抗血小板薬を服用する場合、飲み始めでは2〜4週間に1度、その後数年間は数カ月に1度、肝機能や白血球などに副作用が現れていないか血液検査を行います。また、再発リスクの程度に応じて、MRIなどの画像検査や頸動脈エコーなどの検査が行われることもあります。

「抗血小板薬は、効き目を数値で測定できないため、飲まなくても同じでは? と、自己判断で薬をやめてしまう方もいるようですが、再発の危険が高まるので、基本的にはずっと飲み続けていくことが勧められます。なお、抗血小板薬を飲んでいる方では、同時に動脈硬化や高血圧、高脂血症などもコントロールしていることが多いので、これらの治療薬も処方どおりに服用しましょう」

5.抗血小板薬を飲み忘れたら
うっかり薬を飲み忘れたときは、翌日からまた1日分ずつ飲むようにと伊藤先生は勧めています。翌日に2日分を飲むのは避けてください。数日忘れてしまった場合も、通常通りの量で再開するのがわかりやすく安全だと思います。

6.ほかの薬との飲み合わせの注意点は?
抗血小板薬と抗凝固薬(ワルファリン)を同時に服用している場合は、作用が強くなり、出血のリスクが高まるので、定期的に血液検査を受けて薬剤の量を調節してもらうようにします。

市販薬との相互作用については、感冒薬を数日間飲む程度なら問題ありません。ただ、肩こりや腰痛、膝の痛みなどに用いられる消炎鎮痛剤を長期間服用すると、アスピリンの効果を減弱させることがありますから、主治医に相談してください。

7.手術や抜歯の場合、休薬が必要?

抗血小板薬を飲んでいると止血しにくくなるので、出血のリスクが高まる手術の際には休薬すべきかどうかが問題になります。

「薬剤によって効果の持続期間が違うので、休薬期間も変わってきます。大手術の場合、クロピドグレルなら14日前、アスピリンなら7日前、シロスタゾールなら3日前からの休薬が必要です。胃カメラによる生検などは比較的出血が少ないと考えられるため、クロピドグレルなら5日前、アスピリンなら3日前、シロスタゾールなら2日前からの休薬が勧められています。抜歯をする場合は、出血量や止血法にもよりますが、出血が少ないと予想されるときは、休薬しなくてよいとされています」

いずれの場合も、事前に手術や抜歯の担当医に、抗血小板薬を服用中であることを伝えておきましょう。

休薬期間中は、日常生活でも脳梗塞を予防する心がけがとりわけ大切です。

「血液が濃くならないように、水分は多めに摂りましょう。冬場は脳梗塞も脳出血も多い時期です。急激な気温の変化は血圧のアップダウンにつながり、脳梗塞の原因になります。入浴時には脱衣場や浴室を温めたり、就寝中にトイレへ立つときも冷えないようにするなどの工夫をしてください」と伊藤先生はアドバイスしています。

取材協力:慶應義塾大学医学部神経内科 講師 伊藤義彰先生


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