脳梗塞は時間との闘いです。
脳梗塞コラム
第6回 自宅療養の脳梗塞の患者さんと家族に力強い味方―訪問リハビリ専門医の活躍
[2008.10.08.]
リハビリ専門医の診断と適切な治療方針が機能回復のカギを握る

脳梗塞をはじめとする脳卒中の患者さんに対する介護の労力は、寝たきりの患者と伝い歩きのできる患者さんとでは天と地ほど異なります。両者を分けるのは麻痺など障害の程度に大きく左右されるものの、自宅を訪ねて障害の程度や改善の方策を立てる訪問リハビリ専門医の診断と治療方針が大きなカギを握っています。
脳卒中で倒れ、寝たきりの状態のまま病院から退院してきた60代の女性患者さんの場合もそうでした。
「自宅に往診に伺い、もう一度リハビリ専門医の観点から診てみると、歩行機能をはじめ麻痺からの回復は可能であるとの診断がついたのです」
こう指摘するのは東京・大田区の山王リハビリ・クリニック院長の森英二先生です。
週3回の訪問リハビリによって約3ヵ月で
歩行が可能になった寝たきりの脳卒中の患者さん
森先生は硬くなった股関節や足関節を柔らかくするための関節可動域訓練や、筋力回復のための足あげ訓練などのリハビリメニューをただちに作成し、そのメニューをもとに週3回の理学療法士による訪問リハビリがスタートしました。
「当初、この患者さんは自宅における週3回の訪問リハビリを行ったのですが、さらに集中的なリハビリによって機能回復がもっとはかれると考えられました」
そのためもう一度リハビリ専門病院に再入院し、約3ヵ月間にわたって集中的なリハビリを受けてもらったのです。その効果は劇的なものでした。ある程度の歩行が可能になったのです。
「退院後、再び訪問リハビリを行うと共に通所リハビリも開始して、いまは自宅の周りを散歩することもできるまでに回復しています」
大幅な機能回復の決め手となったのは、リハビリ専門医ならではの森先生による正しい診断と適切な治療方針だったといえます。
機能を維持して快適な生活を送るのが
在宅における維持期リハビリの目的

ご存じのように脳卒中のリハビリは急性期と回復期、維持期に分けられます。急性期のリハビリは脳卒中の発症後、全身状態が安定してきたら可能な限り早い時期から開始されます。安静を重視するあまりベッドで寝たままでいると筋力が低下したり、関節が硬くなったりするなどしてそのまま寝たきりとなりかねないからです。
回復期のリハビリは急性期の治療が終了した2〜3週間後から始められることが多く、リハビリ専門病院か回復期病棟に移り、脳卒中によって招いた障害を克服するため密度の濃いリハビリを集中的に行います。
「維持期のリハビリは自宅に戻った後、生涯にわたって続けられます。再び筋力の低下や関節の拘縮などを招かないように予防し、日常生活の質(QOL)を維持して快適な生活を送るためです」
在宅における維持期リハビリは、医師の診断と治療方針の下に理学療法士や作業療法士などが患者さんの自宅を訪れて行う訪問リハビリや、地域のリハビリテーションセンターに患者さんが通院して行う通所リハビリなどによって主に行われます。
患者さんにとって本来の生活の場である
自宅におけるリハビリ指導に熱い思い
森先生が東京・大田区の山王の地に、地域に根ざしたリハビリ専門クリニックとして山王リハビリ・クリニックを開業したのは1995年です。それまで慶應義塾大学病院や小田原市立病院、国立療養所東埼玉病院などで急性期や回復期のリハビリ治療を行っていましたが、患者さんのメイン・ステージである自宅=在宅においてリハビリ指導にあたりたいという熱い思いから開業したのです。
「患者さんにとって病院は治療を受けるための場所です。あくまでも患者さんの生活の場である自宅や地域において、長期のサポートを行っていきたいと思ったのです」
訪問リハビリの患者さんは100人以上
もっぱら自転車で患者の自宅へ往診
昨年(2007年)11月には近くの東雪谷に移転し、さらなるリハビリサービスの充実をはかっています。
「現在、訪問リハビリの対象となっている患者さんは100人以上にのぼります。私ともう1人のリハビリ専門医・速水聰医師の2人で診て回っています」
脳卒中の患者さんは訪問リハビリの患者全体の約半数。月1回や月2回のペースで自宅を訪れる患者さんがほとんどですが、中には週に1回やそれ以上の頻度で訪ねる患者もいます。
森先生が患者さん宅を回るのに利用しているのはもっぱら自転車です。「自動車やタクシーで回るよりも手間がかからず、すみやかに移動できるからです」

リハビリ難民が続出
危機に立つリハビリテーション医療
リハビリテーションの語源は「人間の復権」です。身体に障害を招いたことで失われた生活を再び取り戻すことです。家庭に戻り、イキイキとした人生を送れるようにするのが目的ですが、最近は「リハビリの恩恵を受けられない」と嘆く患者さんが後を絶ちません。
なによりも2006年の診療報酬改定で疾患別リハビリと上限日数を決められたことが大きいといえます。健康保険によるリハビリは「改善が見込める場合」のみとされ、脳卒中の患者さんの場合、リハビリ専門病院か回復期病棟における回復期のリハビリが最長180日(6ヵ月)に制限されたのです。
「事実、脳卒中の患者さんの中には回復期のリハビリが十分に行われず、機能の回復などが不十分なまま自宅に戻されてしまう人もいます」
実は、先に紹介した患者さんもそのうちの1人です。全国保険医団体連合会によると、全国では20万人以上がリハビリの打ち切りに直面しているのではないかと推測されています。
地域における維持期リハビリの充実を
増員が望まれるリハビリ専門医
一方、地域における訪問リハビリや通所リハビリの充実を求める国民の声は年を追うごとに大きくなっています。リハビリ専門医による正確な診断と適切な治療方針によって、機能の回復の大幅な改善や患者さんのQOLの飛躍的な向上がはかれることもあるからです。
「残念なことですが、リハビリ専門医の人数自体が少ないために、地域における維持期リハビリを指導するリハビリ専門医もまだまだわずかにとどまっています」
訪問リハビリなどを受けたい、と切実に願う脳卒中の患者さんとその家族は少なくありません。森先生をはじめ、地域において維持期リハビリの指導を志すリハビリ専門医には、さらなる奮闘をお願いしたいものです。
取材協力および画像提供:山王リハビリ・クリニック 院長 森英二 先生




